うらみわびの【きょう考えたこと】第44回
これは言わないで!
うつ病当事者に対して家族が言ってはいけない言葉がある。それは、「いつになったら働くの?」、「社会で頑張っている人がいるのに情けない」と言った、働くことの強要。
「うつ病になったのは自業自得だ」、「心が弱いからうつ病になったのだ」という当事者を陥れる発言、「誰もが辛いことがあるなか乗り越えてきている」という一般論。
これらの言葉を紐解くと、発言者たる家族の心の内が透けて見える。ポジティブな面では、自分がなんとかしてあげよう、という考え。ネガティブな面では、家族がうつ病になって情けない、面倒だ、という考えだ。
うつ病は心の骨折
うつ病は骨折によくたとえられる。心の骨折だ。骨折した人に対して、「歩くと治りが速い」、「車いすで頑張っている人もいるんだから、あなたも頑張りなさい」とは言わないだろう。
また、「骨折なんかして情けない」とも言わないはずだ。骨折はしようがないこと、だからだ。骨折を憎んで骨折者を憎まない。
以上より、うつ病の人に対する上記のような家族の言動は当事者にとって酷であり、的を得ていない、と言うほかない。
うつ病にどう寄り添う?
大切なのは「距離感」
うつ病当事者に寄り添う家族にとって気にかけて欲しいのが距離感だ。
外界とも本人とも違う家族だけの距離感というものがある。大切なのが、「自分がうつ病を治してあげる」などと考えないことだ。うつ病は生半可な病ではない。
うつ病で知ってほしい2つのこと
人の言葉や行動で簡単に治るのであれば、現在、日本国内にこれほどうつ病患者がいるはずがない。精神科医やカウンセラーをもってしても手個づっているのだ。それには2つの理由がある。
一つはうつ病が完治しない病であること。一度壊れた心は完全には治らない。
心の傷はトラウマとしてよみがえるのだ。心の状態に特有の波がある、ことを認めること。うつ病と共に生きる「ウィズ・うつ病」という生き方を選択していくほうが合理的だ。
2つ目はうつ病は「自分でしか回復できない」ということだ。これは骨折の場合も同じだ。医者や介護士がリハビリを手伝うが、結局のところ当事者が自分で治すしかない。
家族にしかできないこと
したがって、家族ができることは限られている。でも、家族にしかできないことがある。
それは、「見守ること」、「ポジティブな声かけ」だ。「いつも側にいるよ」、「あなたは十分頑張っている」と言うだけでいい。
うつ病は自分で治すしかないのだから、周りに励ましてくれる声や姿勢がなければ孤独な闘いである。ましてや回復や社会復帰を急かす言動により、本人にとって家庭内が戦場と化すのである。
家族にとって焦る気持ちは痛いほど分かる。うつ病は経済との闘いでもある。うつ病ほど保険の給付を受けることが困難(初診を受けたことの証明、うつ病の原因が職場内にあることの認定率など)で、尚且つ本人が就職困難な病気はないのではないか。
うつ病は「こころの病」と抽象的に捉えられるにとどまり、その本質は社会において認知されていない、と私は感じている。
よって、突如としてうつ病当事者とその支援者となった家族は周りに助けを求めづらい、閉鎖的な空間での闘病を余儀なくされる。その中で諸所の理由により、うつ病当事者とその家族との間に考え方、感じ方の相違が生じており、その穴がなかなかうまっていないのではないか、と危惧している。
今日も皆さんが幸せでありますように!