デジタル化の波
本書『クララとお日さま』の世界観はおもしろい。
というのもこの世界の人間は平均的ではないからだ。あまりにも両極端すぎる。
「向上措置」を受けた人間とそうでない人間には学力の差が歴然と現れる。そして「向上措置」の有無がある人間を判断するひとつの大きな材料となっているのだ。学力のないものは定職に着くのが難しい。『クララとお日さま』が描いているのはそんな学力至上主義の社会なのである。
私はこのことにがっかりした。ロボットの存在は人間社会を豊かにしてくれるものだと信じているからである。ロボットを含めた技術革新がもたらすのは格差の是正であり、人間の平等化ではないのか。
現代をみてみても似たような様子を感じられる。スマホやAIの普及は万人を膨大なデータにアクセスできるようにし、私たちの能力を底上げし、平等化してくれるような気がしていた。
しかし、実際には技術を”使いこなす”ことが求められる。日々進化する技術にアクセスできない者は淘汰される環境に私たちはあるのだ。
10年ほどまえまでスマホのない生活は当たり前だった。でも現在ではスマホのない生活は考えられない。公的機関や金融機関、保険会社の情報はデータベース化され、窓口ではなくデジタルでの対応が主流化されつつある。私たち個人の意思とは関係なくデジタル化の波は押し寄せてくる。
デジタル社会に生き残るために私たちはその術を手に入れなくてはならない。その主たるものが”デジタル社会への順応”ということになるだろう。
「あるものを受けいれる」。その姿勢は現代社会を色濃くあらわしており、本書の細部まで流れている血液の様でもある。
価格:2,750円 |
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