うらみわびの【この本がおもしろい!】第5回
谷川浩司 著 講談社(2021)
『藤井聡太論 将棋の未来』
藤井聡太論 将棋の未来 (講談社+α新書) [ 谷川 浩司 ]
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勝手に評価表 | |
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ストーリー | ★★★★ |
アクション | ★ |
感動 | ★ |
将棋界の新星としてあらわれ、現在では空前の将棋ブームの台風の目になっている藤井聡太さん。
昨年は”棋聖”と”王位”という二冠を達成。今年には初のタイトル防衛を果たすなどその活躍はプロ棋士たちの予想をも上回り、数多くの人々を魅了している。
加えて驚くべきは聡太氏の”負け”の少なさ。通常の対局に加えてタイトル戦も戦いながら、たったの八敗しかしていない。
藤井聡太さんの”強さ”の秘訣とは何なのだろうか。彼は他のプロ棋士たちがもっていない”何か”を確実に持っている。
その”何か”に迫ったのが本書『藤井聡太論 将棋の未来』である。
本書の大きな特徴は2つある。1つは著者が現役のプロ棋士である谷川浩二 九段である、ということ。「光速の寄せ」の異名をもつ将棋界屈指の実力者がみる天才棋士の魅力とその理由とは。
2つめとして、本書の内容は将棋にとどまらない普遍性がある、という点である。
聡太氏の強さは時代とともに進化したAIの導入とよくセットで語られる。現在、程度の差はあれど、ほとんどのプロ棋士が練習や研究にAIの将棋ソフトを用いている。現代の将棋界はAIなしには語れないのである。
したがって聡太氏の強さの秘訣はデジタルネイティブ世代として、AIを使いこなしている、という予想が成り立つ。
少なくともAIが聡太氏の強さにひとつの可能性を与えている。
そしてAIは将棋界に限ったはなしではない。例えばネット広告やあらゆる情報のデータベース化など、私たちのまわりにはAIが使われている。
同時にそれは私たちにとって”AIといかに共存するべきか”という問いを発している。
悲観的にみればAIを使いこなせない人間は生き残れない社会になってきているといえる。
本書では「これからはAIとの共存の時代」と語った聡太氏とAIとの付き合い方や、著者である谷川氏の考えが記されている。ここからデジタル社会を生き抜く術が得られるだろう。
AIで変わる序盤戦
AIの得意分野
AIが私たちの社会にもたらすものはなんだろうか。
それは”先を見通す力”である、と谷川氏は言う。
人間の考え出すものとして、ゼロから突然何かを生み出すことは困難である。
時代や分野ごとに必ず天才は存在するものであるが、社会を構成する大多数が凡人であるとすると、その思考パターンはある程度、過去の経験値の蓄積による、といっていい。
過去の経験値の蓄積。これこそがAIの強みである。
将棋に関していえば、AIは過去の棋士の対局の膨大なデータを学習している。
将棋の一局は序盤・中盤・終盤と局面ごとに大きく3つに分類される。
AIの登場により特に序盤はかなり視野がくっきりとした印象がある。
間違いが少ない、ということ
したがって序盤で大きくリードを奪う、という展開は今後少なくなっていく可能性がある。
したがって発想の転換が必要だ。棋士に求められるのは、序盤でリードを”奪う”ということではなく、序盤~中盤にかけて差を”広げられない”ことだと考える。
つまり、”間違いが少ない”将棋が今後よりいっそう求められるようになるだろう。
これは私たちの仕事や私生活でも同じことがいえるように思う。
AIを含め、あらゆるものが私たちの生活をサポートしてくれる今、私たちに求められるのは”完璧さ”ではなく”安定感”である。
それは間違いが少ない、ということをあらわしている。
序盤~中盤はある程度の接戦が予想されるなかで、相手の玉を詰ませる終盤はいまだに”人間力”によるところが大きい。守りから攻めへ、攻めから詰ましにかかる、というこのスピード感と手筋は個人技といえる。
藤井聡太氏が強いのはこの終盤力なのである。
詰将棋選手権の連覇の経験もある聡太氏は終盤に強い。終盤の思考が良好だからある程度差をつけられても逆転できる。
先ほどの”間違いの少なさ”に加えてこの終盤力が彼の強さに秘訣だろう。
終盤力はどこから?
終盤力を伸ばすにはどうしたらよいのか。
これはもう、”経験を積む”しかないだろう。
詰将棋を解く、相手と対局する。この実経験の積み重ねが終盤の感覚を磨いていくことになる。
理屈よりも実践。この点で終盤力はAIよりも人間の個人技の領域であるといえる。
努力をにおわせない
それにしても驚くべきは、藤井聡太氏には努力の薫りがしない、ということである、と谷川氏は指摘する。
これは私も同感である。
先日、アメリカ・メジャーリーグのホームランダービーやオールスターゲームに出場しファンを沸かせている大谷翔平選手に対しても新聞で同様の指摘がなされていた。
大谷選手は野球を”楽しんでいる”。そこに努力のにおいがしない。
自信には努力の裏付けが必要 大谷翔平もそうだが、努力のにおいがしない。
これはすごいことである。
勝負の世界では1戦1戦の成績がものを言う。成績の残せない者はことごとく排除されるのがプロの世界。
そこで生き残るにはある意味で狡猾にならなければならないこともある。具体的には自分の得意なものよりも相手の苦手な戦法を選択しなければならないことも出てくる。
印象的なのは、野球のメジャーリーグで大谷翔平選手と対決したヤンキースのコルテス投手。
ここまで2打席連続ホームランを放った大谷選手に対してコルテス投手は、超スローや超クイックといった変則モーションで球を放じた。
試合後にコルテス投手は大谷選手を賞賛した後、「メジャーで生き残る以上、私もあらゆる手段を使わないといけない」と述べていたのが印象的だった。
対照的に聡太氏は相手によって作戦を大きく変えない。居飛車でいえば角換わりや矢倉がほとんどである。
いわば、聡太氏は自分の得意を磨き続けて勝利を重ねている。稀有な存在である。それでいて高い勝率をのこしているのだから驚きである。
谷川氏いわく、将棋棋士には「勝負師」、「研究家」、「芸術家」という3つの顔がある、という。
AIを取り入れた研究家であり、経験に基づいた終盤力の勝負師であり、将棋を楽しむ少年のような芸術家の側面をあわせもつ。藤井聡太氏はそのすべてをあわせもつ棋士である。
AIの登場により戦力構図が変化しつつある。そんな「カオス」な令和の将棋界のこれからのゆくえにも注目だ。
今日も皆さんが幸せでありますように
藤井聡太論 将棋の未来 (講談社+α新書) [ 谷川 浩司 ] 価格:990円 |
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