うらみわびの【この本がおもしろい!】第12回
ラッセル著 安藤貞雄 訳
岩波書店(1991)
『幸福論』
幸福論(ラッセル) (岩波文庫 青649-3) [ ラッセル,B.(バートランド) ]
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勝手に評価表 | |
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ストーリー | ★★★★ |
アクション | ★★ |
感動 | ★ |
”不幸”から”幸福”を考える
誰しもが”幸せ”になりたいと願っている。
では、幸せになるにはどうしたらよいのだろうか。
”幸せ”と”不幸”は表裏一体である。”幸せ”を考えるには同時に”不幸”に対しても思いを寄せる必要があるのではないだろうか。
不幸をもたらすものには実に様々なものがある。”不幸”、”競争”、”ねたみ”、”被害妄想”、”世間体”、”罪”…… ラッセルは本書でまずは不幸を8種類に分類し、それぞれについて考察してみせる。この分類がなんとも見事だ。
- バイロン風の不幸
- 競争
- 退屈と興奮
- 疲れ
- ねたみ
- 罪の意識
- 被害妄想
- 世評に対する怯え
見てみると「たしかに~」ってなってくる。特に現代のネット社会では3番の「退屈と興奮」は大きな要素な気がする。気づいたらスマホを見てしまっている自分。気づいたらYouTube開いていてびっくりしてしまった!「自分、どんだけ退屈がこわいんかいっ!」ってなる。人間って本当に退屈に弱くなってきたな、ってつくづく思う今日この頃。
ラッセルの洞察力にはびっくり。人間をめちゃくちゃ観察した人だよ、この人。彼はそこから「では、どう幸せになろうか」というアドバイスを本書『幸福論』では示してくれる。
それゆえ、あえて希望したいことは、幸福をエンジョイすることなく、不幸に苦しんでいる多数の男女の中に、本書によって自分の置かれた立場を診断され、そこからのがれる方法を暗示されたと感じる人が少しでもいてほしい、ということだ。
ラッセル『幸福論』「はしがき」より
つまるところ、”幸せ”と一言にいっても、それはゴールであって、そこには長い道のりがある。思考法ひとつで劇的に人生が変わる、なんていうことは私は信じない。そんなものがあるなら私のうつ症状はもっとよくなっているはずだからである。
これは私の実体験であるが、うつ症状との闘いで感じるのは、自らが常に光の当たる場所ではなく影の場所で闘っている、という感覚である。
幸せについて考えるのではなく、不幸について考える。そのなかでもポジティブに。つまり「どうしたら、このネガティブな思考を取り除けるだろうか」ということを突き詰めて生活しているのである。
これは決してネガティブなことではない。私はこの思考法を”消極的ポジティブ思考”と呼んでいるが、ネガティブな思考をする時間を1日のなかで少しでも少なくしよう、という姿勢である。
”不幸”を手放す感覚
ラッセルが並べるあらゆる”不幸”の因子について、共通することがある。それは”比較”する心理である。
ここからわかることは、私たちは決して自ら自身がネガティブな存在なのではない。ネガティブを引き起こすのは、例えば劣等感。
つまり、他者と比較してはじめて自らが負い目を感じるようになるのである。ラッセルはこれを「金持ち」という幸福の一例とされるものを引き合いにと説いている。
機械生産の恩恵に、それを最も必要とする人びとが少しでもあずかれるようにするためには、貧困の恒常化を避けなければならない。しかし、金持ち自身が不幸であるとしたら、万人を金持ちにしたって、なんの足しになるだろうか。残酷さや恐怖をたたき込む教育は良くないが、自らこういう情念のとりこになっている人たちからは、それ以外の教育を期待することはできない。このように考えてくると、いきおい、個人の問題に突きあたる。つまり、古きよき日をなつかしむだけの今日の社会の只中にあって、男性や女性は、いまここで、幸福を勝ちとるために何ができるか、ということだ。
同上、p.14
なぜ金持ちになれば幸せなのだろうか。生活の安定が得られるからだろうか。
しかしながら、あらゆる金持ちや物語のなかの金持ちをみても、幸せそうにはみえない。
それはおそらく、”金持ち”の目的が「生活の安定」ではなく、権力欲やプライド、羨望といった他者からの評価であることが多々あるから、ではないだろうか。
結局のところ、私たちの”幸せ”というものは”他者”なにしはあり得ないのである。もしも幸せを成すものを他者から与えられているのであれば。
であるならば、”不幸”を取り除くには、このような自分以外の他者から解放されるのが手っ取り早い、ということにならないか。
敵は自らの中にはない。したがって解決策も自らの中にはない。”幸福”になるには自分の外の世界、つまり社会と、他者と関わっていくことが大切である。
見るべきは自らの内側ではなく、外側である。 自分自身を見つめると欠点ばかりになってしまう。 周りの人々、大切なものに目を移す 自らの弱点に無関心になり手放すことが重要だ。
これはうつ症状の回復における重要事項だ。世間的にいわれる「鬱」というのはなんとも悲観的で、当人の思考・人間性に問題がある、という論調がとられやすい。完全に否定はしないが、この論から当人たちが立ち直るきっかけは皆無に等しい。
問題は悩みを手放すことである。これは単なる行動ではない。悩みを忘れてしまうくらいの没頭できる何かを、それも一つではない。多くの何かを得る必要がある。それが私に照ってはアニメであり、ゲームであり、仕事であり、ブログである。
「多趣味は強い」というのはラッセルが本書で語っていることである。なぜなら、一つの信念は環境の変化次第でいくらでも打ち砕かれる可能性があるからだ。ひとつがダメでも、また別のすがれる何かがある。これこそが人生勝ち組の秘訣ではないだろうか。
いわば「気づいたら悩みとおさらばしていた」という感覚である。悩みは消えたわけではない。ただ、その悩みを気にする順位が下がっただけなのである。あらゆる楽しみが、希望が、未来が、その間に割って入ったに過ぎないのである。
これは逃げではない。幸福とは忘却でもある。そして行動でもある。
そう、行動。この点において「幸せは歩いてこない」のであり、これこそがラッセルと同じく『幸福論』なるタイトルの本を出したフランスの精神学者アランの主張するところでもあるのである。
今日も皆さんが幸せでありますように
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