この本がおもしろい!

4つの物語が醸し出すハーモニー♪この物語は暖かい 夏川椎菜 著『ぬけがら』を読む

 多角的な女性

はじめに「初恋にシャンプー」を読んだときはコインランドリーの女性に好感が持てませんでした。なんだかつっけんどんな感じでね。一方で、次の「匿名銭湯小噺」のバイトの女の子は「かわいいな」と思いながら読んでいました。あとで二人の女性が同一人物であることに一人で動揺していました。

人間とは分からないものです。実際に直接会って話をしても、その場のシチュエーションによって印象はちがってくるし。そもそも私たちはシチュエーションによって自分」を使い分けているんだよね。半ば無意識にやっているから気づかない時もあるけど、例えば私がアルバイトをしていた時は、アルバイトの自分とプライベートの自分は完全に切り離していた。だから客からの結構なクレームにもへこたれなかったと思う。人はそうやって無理やりにでも本体の「自分」にシールドを張っていないとやられてしまうように思う。

そんななかで、一人の女性がこんなにも違う印象をもってしまうのだから怖い。だって、これが夫婦だったら、先に「好き」を魅せられて後で「嫌い」を見せられたら純粋に減滅してしまうことってあると思うんだよね。そこに恋愛の難しさの一片があると思う。

だからこそ、心に留めておかなくちゃ。「今、自分が知っていることが全てじゃない」って。これは否定的な見方じゃなくて、むしろそう認識することで「嫌い」にもうまく対処できるようになると思うから。完璧で理想的な人間はいないからね。

(だからといって、私たちがロボットにはしるか、といわれれば分からいけど……)

 ぬけがら

一人の女性の人生の再出発をセミの「ぬけがら」に喩えたのがいい比喩。セミは人生の大半を地中で過ごし、一か八かの賭けで人生の最期の数日間を地上での求婚に使う。セミにとってはその数日間が人生(セミ生?)において最も輝かしい時間なんだと思う。女性のこれからへの希望が「ぬけがら」という表現にのって上手に表現されている。

それにしても、本作の主人公は根はすごいポジティブなんだよね。それは「匿名銭湯小噺」や「タカビシャとパッチ」を読めばわかる。でも、そんなポジティブさだったり真面目さだったりが彼女の人生の出鼻をくじくこともある。

成長には必ず痛みが伴う。ちょうど筋肉の成長には筋肉痛が伴うのと同じだ。ちなみに筋肉痛からの解放のことを超回復と呼ぶらしい。筋肉痛とは筋肉がいちどちぎれ、そこから徐々に筋肉同士が再びくっつき合い、その治る過程で結果として以前より強い筋肉が作られる、からだそうだ。

人生にも筋肉痛は存在する。新たな決断をするときには様々な「痛み」が伴うものだ。それは私たちのこれまでの認識とは異なることを自ら選択して行おうとするからである。ある意味当然の反応である。しかし、あらたな挑戦の先に新たな幸せがあるのも事実である。

「ちがう、こんな綺麗な街から離れる、私のこの決意は、きっとすごく強いのだ。」

『ぬけがら』「エピローグ」

本作の主人公もそれに気づいているようである。挑戦とは常に醜い姿をしている、といえる。

 女の子の苦悩

私と孫の古時計」はかなり重い話。このストーリーのなかで打ちひしがれた女性が時間をおいて前向きに歩みだす過程が描かれている。それが形容詞で綺麗に表現されているところがいい。

とつとつと辞めた理由について話し始めた。

 

『ぬけがら』「私と孫の古時計」

つらつらと孫は続ける。

 

同上

「とつとつ」と「つらつら」という4音に女性の心情が体現されているのがすばらしい。シンプルでいて深い。雅な表現である。

 古時計

私と孫の古時計」は、かの歌『古時計』を念頭に置いたものだろうか。おじいさんと共に家族代々、その成長を見守ってき古時計。おじいちゃんの死と共に時が止まってしまう古時計。

本作において、仕事を突然辞めてからの孫の時間を「止まる」と表現したのは個人的には違和感のある表現であった。

強いていえば、これは主観的な表現である。人間の人生は右肩上がりではない。停滞期もあれば後退期もある。人生のある部分を切り取れば後退期は人生の下り坂。でも、視野を広げてみて、数十年後の自分の位置を見たときに、そのグラフの値はきっと前よりも上にあるはずなのである。だから、私たちの人生はトータルで見れば上り坂であり、平均的なグラフは常に右上がり、したがってどんなに辛い時間も「止まって」はいないのだ。

人間は辛い時には「辛い」としか感じることができない。これはしょうがないことだと思う。でも、心のどこかで諦めない気持ち、前向きな気持ちはもっていたい、と常々思っている。これについては最近読んだ本では、シェリー・ケーガン 著『DEATH』で「自殺」と絡めて論じられていた。考え方は人それぞれであるが、「今」が人生の潮時なのか、というのは考えられそうで、考えないほうがいい、議題なのかもしれない。

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夏川さんは正直、声優とエッセイストというイメージが強いので、小説はどうかな、と思って読んでみたのですが、予想以上のおもしろさでした。読んでみてよかったです。

今日も皆さんが幸せでありますように

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