二つの病と闘う
清原さんが薬物に手を出したこと、それ自体は決して軽いものではない。しかし、彼が輝かしいプロ野球のスター選手だったから、ストイックな性格だったから人一倍、薬物の落とし穴にはまりやすかったように思える。
薬物依存と共に清原さんを苦しめたのがうつ病である。これも彼の心の弱さが原因ではない。世間の目と何もできない自分へのふがいなさがうつ病を進行させるのである。本書の端々に彼の苦悩がつづられている。辛いのは、何がうつ病の原因なのかがはっきりしないこと、そしてポテンシャルが下がった肉体では何もできないことからの焦りである。
薬物依存症とうつ病、2つの病と真剣に向き合うようになって清原さんは変わった。生き方が変わった。
「僕の新しい生き方は依存することです。薬物にではなく、人に依存するということです。薬物依存というのは自分で何とかしようと思ってできるものではありません。一度やってしまったら、もう意志の力とか、精神力ではどうにもならないんです」
他者に依存すること、それは一人で極限まで苦しんだからこそ辿り着いた答えだと、私は感じた。彼はバッターボックスの一匹狼だった清原さんではない。しなやかな強さをもった清原さんを感じた。
彼の今後は明確には決まっていない。でも、子どもたちとの野球を通した触れ合い。野球に対する情熱、盤石ではないにせよ、今日一日を生きていく、そんな気持ちがじんわりと伝わってくる本でした。
依存症、精神病、これは骨折や生活習慣病と同じく誰もがなる可能性のある病気である。厄介なことにその兆候をつかむことが難しい。高みをめざすことは、それ自体が生きがいであり、大切なことである。でも、そこにはリスクも潜んでいる。心のゆとりも大切だ。「自立」とは本当は自分の心をいたわり、マネジメントすることなのかもしれない。
今日も皆さんが幸せでありますように