うらみわびの【きょう考えたこと】第39回
7月2日未明から発生した通信会社大手KDDIの通信障害。原因は通信設備の交換らしい。KDDIの会見によれば、通信障害は4日16時頃にはおおむね復旧したという。これまでに例を見ない長期の通信障害。携帯電話がつながらないだけでなく、救急搬送や運輸、オフィス業などでも大きな障害が発生したという。
ハイテク社会のなかで通信は必要不可欠なインフラとなった。そのインフラの欠陥は許されるものではない、といえよう。しかしながら、私個人の感覚として申し上げると、間違いを完全になくすことを追うがゆえに、起きた過ちを過剰に攻めることにも少なからず問題があるように思えてならない。
失敗から学ぶ姿勢
もちろん問題があってはならない。それが人々の生命や生活基盤となっているインフラならなおさらである。だからこそ、問題が起こらないためにはどうすればよいのか、常日頃から問題・課題を洗い出し、対策を構築する必要がある、と考える。そのためには過去の過ちから学ぶ姿勢が必要だ。
一方で、課題は問題から見つかることもある。例えば、今回の通信障害を例にとれると、第一に通信設備の交換の手順や設備事態に問題がなかったか。これは当該通信会社が調査されるべき問題である。
加えて第二に、今回の通信障害の大きな問題点は障害が長期化したことである。この点でいえば、他社の通信会社とデータの融通ができないか、あらかじめ非常時のマニュアルを共有しておくことも必要だろう。
または非常時の第二、第三のデータ通信の選択肢を我々個人が持っておくべきかもしれない。先日は急な梅雨明け宣言と猛暑で日本全国で電力がひっ迫。国が節電を呼びかける事態となった。電力に関していえば、ひとつの電力管内で電力予備率が限界寸前に達した際には、他社や他の管内から電力を融通できる仕組みがあるという。通信も非常時に備えた同様の仕組みの構築が急がれる。
国の関与は?
通信や電力はいまや国民が必要とする重要なインフラだ。そこに停滞は許されない。両者の供給が滞れば私たちの生命や生活に直接的な影響を及ぼす。そこで考えられることがある。政府の存在である。つまり国がどの程度までインフラに関与するべきなのか。完全なる国営が望ましいのか。それとも緊急時のみ国が支援をするべきなのか。国の関与の仕方は様々だ。
コンセッション方式でいけるか?
コストを減らせ!
重要インフラと国の関与についての例として水道事業を考えてみる。日本には水道事業がどのくらい存在するかご存じだろうか。
なんと厚生労働省によると、全国に6000以上があるという。その多くを市町村が担っている。しかし人口の減少や節水設備の向上により私たちの使う水道の量は減少。それによる水道料金の値上げ。職員の減少や配管の交換作業も進んでいない。
そこで新たな運営方式として考えられたのが半官半民(コンセッション方式)だ。コンセッション方式とは簡単にいうと、これまで地方公共団体が所有・運営してきた施設の「運営権」を民間の企業に売る。「運営権」を購入した民間企業が実際に施設の運営を行う、というものだ。
コンセッション方式のメリットとして、
①民間企業のノウハウを活かすことができる。
②人材確保や技術導入などの裾野が広がり、リスクが分散
③トータルで経費の削減が見込まれる
などが挙げられる。特に注目すべきは、コストが削減できることだろう。今後、日本では人口の減少により水道料金の高騰が見込まれることは前述した。もちろん国による補助という選択肢もあるだろう。しかしながら水道事業が”事業”として力強く根を張っていくには技術を磨き、人材を育てる、そんな事業フィールドであってほしい。だからこそ、水道事業にも民間の参入が必要なのではないだろうか。そんな考えが興るのも納得できる。
一方で課題は?
これまで通信や鉄道などの分野では民営化が促されてきた。では、水道事業はどうか。先述のコンセッション方式についてみると2022年現在、日本での実例はほとんどない。2022年4月に宮城県がコンセッション方式による水道事業を開始したのが初の事例となる。
コンセッション方式はフランスなど海外の国では行われているようだ。では、なぜ日本では行われてこなかったのか。コンセッション方式のデメリットにも迫る。
コンセッション方式で懸念されるのはやはり事業の安定性だろう。これまでは国の補助もあり、ある意味で手厚く運営されてきた水道事業。それは国の重要インフラとしてはある意味で当たり前の待遇ともいえるだろう。
そこに民間の事業が参入するということ。それは簡潔にいえば、これまで国が行ってきた事業を民間の会社に”委託”するということだ。コンセッション方式のもとでは、国に最終的な運営責任があるので、国が手放しに事業をみているわけではない。一方で、そのなかで民間会社が水道事業において”一定の自由”を享受しているのは事実である。
事業には成功もあれば失敗もある。換言すれば「失敗失くして成功なし」。つまり、失敗というリスクも織り込まなくてはならない。
仮にある民間会社が水道事業にコンセッション方式で参入したとする。しかし事業はいきづまり、最終的にはこの会社は水道事業から撤退してしまう。こうなると残されたものはどうなるのか。つまり、民間会社が設計した水道設備、水道料金、将来的なプラン。それら様々なものが置き去りにされてしまうのである。住民として一番の懸念は水道料金だろう。運営会社が変わるごとに水道料金が変動するのは煩わしいし、出費が増えることも考えなければならない。このように運営会社が変わるごとに住民は振り回されることになる。
このようなことにならないように、コンセッション方式を採用する際には、事業を運営する民間会社の選考を時間をかけて行う。これにはおおむね2~4年かかるという。(水道事業における官民連携に関する手引き(改訂版)厚生労働省)これだけ時間をかけて選考するのだから、選ばれた事業者にはそれなりの信頼がおけるのも事実だ。しかし、2~4年という時間は一事業者の選考時間としては長いと感じられる。仮に事業者が途中で交代するような事態となった場合には、また一から選考をしなくてはならないとしたら、コンセッション方式は扱いにくい選択肢となるだろう。
つまるところ、国による安定をとるか、民間参入による発展とコスト削減の可能性に賭けるか、ということだ。水道事業という新たなフィールドでの挑戦は始まったばかりである。
今日も皆さんが幸せでありますように!